上の部分には「三」と「人」、下には「日」。三人が集まって、太陽を抱くようにも見えませんか。寒い季節を越えた人たちが、暖かな光を囲んでいる――そう想像すると、なんとも春らしい一文字です。
ただし、「そう見えること」と「そこから生まれたこと」は別のお話。現在の形を分解した覚え方と、古い文字をたどって考える字源は、必ずしも一致しません。
春・夏・秋・冬をさかのぼると、芽吹く草木、人の姿、虫、そして糸の結び目という、意外な景色が見えてきます。
「春」――三人ではなく、芽吹きと太陽
上の部分に隠れているのは植物
「春」は一般に、草を表す部分と「日」、そして音を表す「屯」を組み合わせた文字として説明されます。意味に関わる部分と、発音に関わる部分を備えた、形声文字という捉え方です。
「屯」は、芽が地上に出ようとする姿に由来するとされる字でもあります。そのため「春」の字源は、音だけでなく、草木が芽吹く意味にも関わるものとして説明されることがあります。
ここで押さえたいのは、現在の上部が、もともと「三」と「人」を組み合わせて作られたわけではないという点です。古い字形にあった草や「屯」に関わる部分が、長い変化の末に、いまのすっきりした形へとまとまっていきました。
「三人が日を抱く」は楽しい覚え方。一方、字源を考えるときには、太陽のもとで草木が動き始める景色を思い浮かべるとよいでしょう。
春は、年の始まりでもあった
春には季節の名のほかに、「年の初め」や「若い時期」という意味もあります。
旧暦では一年の最初の三か月を春としました。正月を「新春」「迎春」と呼ぶのは、この暦の感覚を受け継いでいるためです。現在の一月にはまだ厳しい寒さがありますが、年賀状の言葉には昔の季節区分が残っているのですね。
芽が出ること、一年が始まること、若い日々を迎えること。春という一文字には、さまざまな「これから」が重なっています。
「夏」――照りつける太陽ではなく、人の姿?
夏と聞けば、強い日差しや入道雲を思い浮かべる人が多いでしょう。ところが「夏」の古い字形は、一般に、頭や手足を備えた人の姿を表したものと説明されます。
現在の字形の下にある「夂」にも、古い字形の足に関わる部分の名残を見る説明があります。もっとも、現代の字を部品に分けただけで、古代の姿をそのまま復元できるわけではありません。
なぜ、人の姿が暑い季節の名になったのか
ここは、字源の面白さと難しさが隣り合うところです。
「夏」の古い姿を人に関わるものと見る説明は広くありますが、それがなぜ季節の夏を表すようになったのかについては、諸説あります。人の動作や姿と結びつける説などがありますが、「暑いので手足を伸ばしている人だ」といった説明を、確定した由来として受け取るのは慎重でありたいところです。
古い字形から比較的読み取りやすいことと、そこから先の意味の変化は、分けて考える必要があります。
夏の字を見て「昔の人の姿が隠れているのかもしれない」と気づく。それだけでも、見慣れた一文字が少し違って見えてきませんか。
「秋」――「禾」と「火」より前に、虫がいた?
「秋」は、のぎへんの「禾」と「火」からできています。「禾」は穀物に関わる字ですから、黄金色の稲穂や収穫の季節を連想しやすい形ですね。
ただ、さらに古い甲骨文字までさかのぼると、話はぐっと意外になります。
古い文字に見える、虫と火の気配
秋に当たる古い字形には、虫の姿と解される形や、それに火を添えたと解される形が見られます。
このことから、作物を食べる虫を焼き払い、実りを守る営みと結びつける説があります。一方で、虫の鳴く時期との関係を考えるなど、字形や意味のつながりには異なる説明もあります。
そのため、「秋は害虫を焼くことから生まれた」と一つの説だけで言い切るのは避けたいところです。また、現在の「禾」と「火」を見て「稲穂が火のように赤くなるから」と説明しても、それだけでは古い字形を説明できません。
大切なのは、今の字形だけでは見えない歴史があるということ。秋の字源をたどると、美しい紅葉だけでなく、虫や穀物と向き合っていた人々の暮らしにも目が向きます。
「冬」――寒さの前にあった「終わり」の形
四季の最後に来る「冬」。この字の古い形は、一般に、糸の両端を結んだ姿に由来し、「終わり」を表していたと説明されます。
ひもや糸の端を結べば、そこで一区切り。目に見えない「終わり」という考えを、身近な物の形で表したと捉えると、古代の人の発想が少し身近になります。
「冬」と「終」のつながり
やがて「冬」が季節の名として使われるようになり、終わる意味を明確に表す字として、糸へんを添えた「終」が使われるようになりました。
また、「冬」の字形には後に氷を表す要素が加わり、現在の下部にある二つの点へとつながったと説明されます。
つまり、初めから今の字形全体が雪景色を描いていたわけではありません。「終わり」に関わる古い形に、寒い季節を示す要素が重なっていったのです。
冬と終わりのつながりを知ると、一年を締めくくる季節の名が、いっそう味わい深く感じられます。
四季の漢字は、季節を超えて心を表す
漢字の成り立ちと、その字を使った言葉の由来は別のものです。それでも、季節の移り変わりを人生や気持ちに重ねる表現には、自然を見つめてきた人々の感覚が息づいています。
春の風は、人柄のたとえにも
春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)は、春の風がのどかに吹くさま。そこから、穏やかでゆったりした人柄や雰囲気にも使います。
あの先生には、春風駘蕩とした雰囲気がある。
単に「優しい」と言うよりも、そばにいる人まで力が抜けるような、のびやかな温かさを感じさせる表現です。
冬のただ中に、次の始まりを見る
一陽来復(いちようらいふく)は、陰が極まった後に陽の気が戻るという考え方に基づく言葉です。もとは冬至を指し、悪い状態が去って、よい方向へ向かうことにも使われます。
冬至は、寒さが終わる日ではありません。それでも、昼の長さが再び増していく節目には、次の季節への希望を見いだせます。
「冬」が終わりに関わる字だと知った後でこの言葉に触れると、終わりは、次の始まりとも隣り合っているように感じられます。
まとめ――覚え方を入り口に、文字の奥へ
春・夏・秋・冬の成り立ちは、四枚の風景画のように単純にはそろいません。
- 春:草や日、音を表す「屯」が関わり、芽吹きの季節を伝える字。
- 夏:古い字形は人の姿とされ、季節名へのつながりには諸説ある字。
- 秋:現在の「禾」と「火」の奥に、虫の姿と解される古い字形を持つ字。
- 冬:糸の端を結んだ姿に由来し、「終わり」と深くつながる字。
「三人が日を抱く」という覚え方は、春を親しみやすくしてくれます。ただ、それを字源そのものとは区別すること。すると、覚える楽しさを失わずに、文字の歴史へもう一歩踏み込めます。
次にカレンダーや季節の便りで四季の漢字を見かけたら、その奥にある芽や人影、虫や糸を思い出してみてください。いつもの一文字が、遠い昔の暮らしへ通じる小さな窓になるはずです。