「今週も、ようやく金曜日」。そう口にするとき、私たちは知らず知らずのうちに、夜空の天体の名前を呼んでいます。
毎日使う曜日の名前。あまりに身近なので意識しませんが、そこには、古代の人々が見上げた星と、世界各地を旅した暦の歴史が折り重なっています。
なぜ七つなのか。なぜあの順番なのか。そして、なぜ英語の曜日には日本語と違って見える名前があるのか。カレンダーの一行を入り口に、壮大な言葉の旅へ出かけましょう。
曜日の正体は、空に輝く「七曜」
まず注目したいのは、どの曜日にも付いている曜という漢字です。
「曜」には、光り輝くという意味があります。そして、古代の天文学や占星術で重視された七つの天体をまとめて、七曜(しちよう)と呼びます。
その顔ぶれは、太陽と月、そして肉眼で観察できる五つの惑星。曜日の最初の一文字は、それぞれ次の天体に対応しています。
| 漢字 | 意味 |
|---|---|
| 日 | 日曜日では太陽を表す。 |
| 月 | 月曜日では月を表す。 |
| 火 | 火曜日では火星に対応する。 |
| 水 | 水曜日では水星に対応する。 |
| 木 | 木曜日では木星に対応する。 |
| 金 | 金曜日では金星に対応する。 |
| 土 | 土曜日では土星に対応する。 |
つまり、曜日の「火」は、台所の炎を直接指しているわけではありません。「木」も庭の木ではなく、木星につながる名前なのです。
現代の天文学では、太陽は恒星、月は地球の衛星であり、惑星とは区別します。しかし古代には、地上から見た空の動きが重要でした。星座を形づくる星々に対して位置を変えていく、目立つ七つの天体。その特別な顔ぶれが、暦や占星術の世界でひとまとまりになったのです。
火・水・木・金・土は、中国の「五行」から
では、惑星の名前に、なぜ火や水、木といった漢字が使われているのでしょう。
その背景には、中国で発達した五行思想があります。これは、自然界のさまざまな現象や変化を「木・火・土・金・水」という五つの要素・はたらきによって捉える考え方です。
五行は、単に五種類の材料を並べたものではありません。方角、季節、色、さらには身体や政治のあり方まで、さまざまな事柄を関連付ける枠組みとして用いられました。
五つの惑星もこの体系に組み込まれ、木星・火星・土星・金星・水星という呼び名につながっています。たとえば、火星の赤みは「火」との対応を直感的に理解しやすくしてくれます。ただし、惑星の命名を、見た目だけで説明できるわけではありません。背後には、五行による大きな対応関係があります。
ここで「金」にも注意してみましょう。五行でいう金は、お金というより金属の意味です。「金曜日は給料日っぽいから金」というわけではないのですね。
また、五行をよく並べる順番は「木・火・土・金・水」。曜日の「火・水・木・金・土」とは違います。曜日の順番の謎は、中国の五行だけでは解けません。
英語の曜日に登場する、惑星と神々
日本語の曜日が天体に由来するなら、英語の曜日はどうでしょう。
SundayにはSun、MondayにはMoonの面影があり、太陽と月の対応が見えます。一方、TuesdayやThursdayは、惑星の名前には見えません。
その間をつなぐのが、神の名前です。
古代ローマの世界では、惑星はマルス、メルクリウス、ユピテル、ウェヌス、サトゥルヌスといった神々と結び付けられていました。こうした天体に基づく曜日名がゲルマン語の世界に受け入れられると、一部の神名は、その土地の神々の名に置き換えられました。
| 日本語の曜日 | 対応する天体 | 英語名 | 英語名の背景 |
|---|---|---|---|
| 日曜日 | 太陽 | Sunday | 太陽の日。 |
| 月曜日 | 月 | Monday | 月の日。 |
| 火曜日 | 火星 | Tuesday | 軍神ティウの名に由来。 |
| 水曜日 | 水星 | Wednesday | ウォーデン、北欧神話のオーディンに対応する神の名に由来。 |
| 木曜日 | 木星 | Thursday | 雷神トールの名に由来。 |
| 金曜日 | 金星 | Friday | 一般に女神フリッグの名に由来すると説明される。 |
| 土曜日 | 土星 | Saturday | ローマ神話のサトゥルヌスの名を受け継ぐ。 |
たとえば、ローマの雷霆の神ユピテルに対応する位置へ、ゲルマンの雷神トールが置かれます。その名が、Thursdayに残っているのです。
ただし、神々の性格がすべてぴったり一致していたわけではありません。異なる文化が、自分たちの知っている神々を通して外来の仕組みを理解した、と考えるとよいでしょう。
日本語は五行に結び付く惑星名を、英語は神々の名前を色濃く残す。見た目は違っても、同じ七つの天体を背景に持つところが面白いのです。
なぜ「月火水木金土日」の順番なのか
七つの天体を使う理由が見えても、順番の謎は残ります。
これは太陽から近い順ではありませんし、地球から見て明るい順でもありません。曜日の配列を説明する代表的な仕組みが、古代の占星術で用いられた惑星時です。
七つの天体を、一時間ずつ順に割り当てる
古代の地球中心の宇宙観では、七つの天体を次の順に並べました。
土星 → 木星 → 火星 → 太陽 → 金星 → 水星 → 月
これは、おおむね星々に対する見かけの運行が遅いものから速いものへという配列で、当時考えられた天体の遠近とも対応していました。
惑星時では、この順番を繰り返しながら、一日の各時間に天体を割り当てます。そして、その日の最初の時間を担当する天体が、その日全体を支配すると考えます。
土星から始めた日を例にしましょう。
- 一時間目は土星、二時間目は木星、三時間目は火星。
- 七時間で一巡し、八時間目は再び土星。
- 二十一時間で三巡するため、二十二時間目は土星、二十三時間目は木星、二十四時間目は火星。
- 翌日の一時間目は、その次の太陽になる。
同じ計算を繰り返すと、各日の最初を担当する天体は、
土星 → 太陽 → 月 → 火星 → 水星 → 木星 → 金星
となります。曜日に直せば、土 → 日 → 月 → 火 → 水 → 木 → 金。どこから読み始めるかを変えるだけで、いつもの一週間が現れました。
鍵になるのは、24を7で割ると、余りが3になること。曜日の一見不思議な順番には、古代の宇宙観と数の仕組みが重なっているのです。
なお、当時の「時間」は昼と夜をそれぞれ十二等分する方式などがあり、いつでも現代の六十分と同じだったわけではありません。ここでは、一日を二十四の区分として扱う点が重要です。
七曜はどうやって日本へ来た?
七日周期の歴史には、古代西アジアの天体観測や占星術、ユダヤ教の七日間の週など、複数の流れが関わっています。「一週間は、ある一人が一度に発明した」と言い切れるほど単純ではありません。
そのうち、天体を各日に配する七曜の仕組みは、ヘレニズム・ローマ世界で発達し、インドや中国へも伝わりました。東へ向かった知識は、各地の言語や思想と出会いながら姿を変えていきます。
日本では、まず暦や占星術の知識だった
中国では、八世紀に漢訳された『宿曜経(すくようきょう)』などが、七曜を伝える重要な文献となりました。日本でも、空海が九世紀初めに持ち帰った仏教文献に『宿曜経』が含まれ、七曜の知識が伝わっています。
ただし、七曜を知っていることと、七日ごとに休みながら暮らすことは別です。
前近代の日本では、七曜は暦や日の吉凶を考える知識として使われましたが、社会全体が現在のような一週間単位で動いていたわけではありません。
暮らしのリズムになるのは明治時代
転機となったのは、明治時代です。日本は1873年に太陽暦へ改暦し、西洋諸国と足並みをそろえる制度の整備を進めました。1876年には官庁で日曜日を休日とする制度が採用されます。
こうした制度や学校生活などを通じて、七日間の週は、しだいに日常の時間割として定着していきました。もちろん、業種や地域によって広まり方には違いがあります。
古くから知られていた曜日の名前が、近代になって「仕事へ行く日」「学校を休む日」を区切る身近な名前になったのです。
カレンダーの一行は、世界史の小さな縮図
曜日の由来を整理すると、三つの層が見えてきます。
- 七つの顔ぶれは、太陽・月と五つの惑星から。
- 日本語の漢字は、中国の五行と結び付いた天体名から。
- 曜日の配列は、古代の惑星時の仕組みで説明できる。
そして、その知識は神話や占星術、仏教文献、近代の制度を通じて、今の暮らしへと届きました。
夜空の光を数えた古代の人々と、スマートフォンで来週の予定を確認する私たち。その間を、七つの曜日が静かにつないでいます。
次に「今日は何曜日?」と尋ねるときは、その名前の向こうに、星と神々の長い旅を少しだけ思い浮かべてみてください。いつもの一週間が、ほんの少し奥行きのあるものに見えてくるはずです。