会議の日程を決めるとき、「参加者に配慮する」と「参加者の都合を考慮する」は、どちらも自然に聞こえます。けれど、「参加者に遠慮する」に変えると、少し違う景色が浮かびませんか。
さらに「参加者の意向を顧慮する」と言えば、急に文章が改まった印象になります。
「配慮」「遠慮」「考慮」「顧慮」。共通するのは、何かを思い、気にかけること。しかし、思いをどこへ向け、その結果どうするのかに違いがあります。四つの言葉を手がかりに、日本語の気遣いをほどいてみましょう。
四つの言葉に共通する「慮る」とは
まず、中心にある漢字を見てみます。
「慮る」は「おもんぱかる」と読みます。周囲の事情や、その先に起こりそうなことまで思い巡らせる、という意味です。
たとえば、相手が黙っているとき。「意見がないのだろう」と受け取るだけでなく、「発言しにくいのかもしれない」「まだ考えているのかもしれない」と、その向こう側にある事情を想像する。そんな思考の働きに近い言葉です。
ただし、「慮」を含む語が、すべて優しさを表すわけではありません。費用や危険性について冷静に考える場合にも使います。共通する芯は、目の前のことだけで決めず、思いを巡らせることにあります。
ひと目でわかる「配慮・遠慮・考慮・顧慮」
四語の中心的な意味を整理すると、次のようになります。
| 二字熟語 | 意味 |
|---|---|
| 配慮 | 相手や周囲の事情に心を配り、気を遣うこと。 |
| 遠慮 | 他人や周囲を気にかけて、自分の言動を控えること。 |
| 考慮 | 事情や条件を、判断の材料として考えに入れること。 |
| 顧慮 | ある事情や影響などを気にかけ、考えに入れること。 |
覚えるための短い言い換えなら、配慮は「気を配る」、遠慮は「自分を控える」、考慮は「判断に入れる」、顧慮は「気にかける」です。
ただし、これは使い分けの入り口。実際には意味が重なる部分もあり、とくに考慮と顧慮は、対象だけできっぱり分けられる言葉ではありません。
配慮――相手や周囲へ、心を行き届かせる
配には、「くばる」「割り当てる」のほかに、「心を行き届かせる」という意味があります。「配慮」は、心配りに重点がある言葉です。
- 小さな子どもに配慮して、説明を短くする。
- 近隣住民に配慮して、夜間の作業を避ける。
- 読みやすさに配慮して、文字を大きくする。
これらの例では、事情を認識するだけでなく、相手の負担や不便を減らそうとする姿勢が見えます。
「環境に配慮した製品」のように、対象は人に限りません。また、配慮という語そのものが、必ず具体的な行動の完了を意味するわけでもありません。「配慮が必要だ」と、これからの心配りを求める使い方もできます。
「配慮」と「考慮」は、どこに光を当てるかが違う
次の二文を比べてみましょう。
- 参加者の年齢を考慮して、休憩を増やした。
- 参加者の体力に配慮して、休憩を増やした。
どちらも自然な表現です。前者は「何を判断材料にしたか」、後者は「誰の負担を気遣ったか」に光を当てています。
同じ行動でも、判断の過程を説明するなら考慮、心配りを伝えるなら配慮がなじむのです。
遠慮――相手を思って、自分の一歩を控える
「もう一つ食べたいけれど、ほかの人の分がなくなるかもしれない」。そう思って手を止めるのが、日常的な意味での遠慮です。
配慮が相手や周囲への心配りを表すのに対し、遠慮は、自分の発言・行動・要求などを控えることに重心があります。
- 忙しそうだったので、長電話は遠慮した。
- 先輩に遠慮して、反対意見を言えなかった。
- お誘いはありがたいのですが、今回は遠慮します。
最後の例のように、遠慮は申し出を断るときの婉曲な表現にもなります。
遠慮は、もともと「遠くまで考える」こと
ここで遠という字に注目すると、少し不思議です。なぜ「遠い」と「思い巡らす」を合わせると、控える意味になるのでしょう。
「遠慮」には、もともと遠い将来まで見通して考えるという意味があります。その意味がよく見えるのが、深謀遠慮です。深く考え抜いた計画と、先々まで見通した慎重な思慮を表し、中国の賈誼の文章「過秦論」にも見える表現です。
一方、現代の日常会話では、周囲への気遣いから言動を控える意味が中心になっています。「先まで考える遠慮」と「自分を控える遠慮」。同じ語の中に、異なる意味の層が残っているのです。
「ご遠慮ください」は、単なる気遣いのお願いではない
「館内での通話はご遠慮ください」は、一般に通話を控えるよう求める表現です。「少し気を遣えば、通話してもよい」という意味ではありません。
一方、「周囲の方にご配慮ください」は、音量を下げる、場所を移すなど、気遣い方に幅があります。
案内文では、この違いが重要です。禁止や制限を確実に伝えたい場面では、「通話はお控えください」「館内での通話は禁止です」など、目的に合った明確さも必要になります。
考慮――事情を、判断の材料に入れる
「考慮」は、条件や事情を踏まえて判断する場面で使う言葉です。相手への優しさを伴うこともありますが、それだけを表す語ではありません。
- 予算と納期を考慮して、発注先を決める。
- 天候を考慮して、開催日を変更する。
- 本人の希望を考慮して、担当業務を決める。
ここで大切なのは、考慮することと、希望どおりにすることは別だという点です。
「ご希望を考慮します」は、希望を判断材料に入れるという意味であり、必ず実現するという約束ではありません。ほかの条件との兼ね合いで、採用されないこともあります。
仕事の説明では、「経験を考慮して担当を決めました」のように使うと、判断の根拠を簡潔に示せます。
顧慮――気になる事情を、顧みて考える
「顧慮」は、ある事情や影響を気にかけ、考えに入れること。「顧」には顧みるという意味があり、無視できない事情へ意識を向ける響きがあります。
- 関係者の立場を顧慮して、発表を見合わせた。
- 周囲への影響を十分に顧慮する必要がある。
- 自分の利害を顧慮せず、救援に尽力した。
意味は考慮と近いものの、日常会話より、評論や改まった文章になじむ硬い語です。「明日の天気を顧慮して服を選ぶ」でも意味は推測できますが、ふつうは「天気を考慮して」のほうが自然でしょう。
また、「顧慮せず」「顧慮することなく」といった否定の形もよく使われます。ただし、それがよい意味になるかどうかは、何を顧慮しないのかで変わります。
- 私利を顧慮しない:自分の利益にとらわれない。
- 他人の苦痛を顧慮しない:他人の苦しみを気にかけない。
顧慮しないことが、潔さにも無神経さにもなる。この語自体に善悪が決まっているわけではないのです。
一つの会議で、四つの言葉を使い分ける
同じ場面に四語を置くと、違いがさらに見えてきます。
配慮する
「初参加の人に配慮して、専門用語を説明した」
相手が困らないようにする、心配りが中心です。
遠慮する
「上司に遠慮して、質問を控えた」
相手を意識した結果、自分の行動を抑えています。
考慮する
「残り時間を考慮して、議題を絞った」
時間という条件を、進行の判断に組み込んでいます。
顧慮する
「関係部署の立場を顧慮して、結論を急がなかった」
関係者の事情を気にかけています。意味は考慮にも近く、会議の報告書などに合う改まった表現です。
気遣いは、いつも「控えること」とは限らない
日本語には、「遠慮しないで聞いてください」「どうぞご遠慮なく」という、控えなくてよいことを伝える表現があります。
ここが、気遣いの面白いところです。相手に配慮するために、あえて遠慮しないほうがよいこともあります。わからないことを質問する、必要な助けを求める、自分の希望をきちんと伝える。そうすることで、相手も判断しやすくなるからです。
「気遣うなら、黙って察するべき」とは限りません。「何かお手伝いできることはありますか」と尋ねることも、十分な配慮です。
四つの言葉に迷ったら、次の問いを思い出してください。
- 心配りを表したい? → 配慮
- 自分が控えることを表したい? → 遠慮
- 判断材料に入れることを表したい? → 考慮
- 事情を気にかけることを、硬い文章で表したい? → 顧慮
「慮る」とは、目の前の言葉や行動の、その少し先へ思いを伸ばすこと。違いを知ると、気遣いはただ曖昧にするためのものではなく、相手と自分の考えをより正確につなぐものになっていきます。