唯識無境
読み方:ゆいしき むきょう
意味
一切の事物・現象は心の認識作用である「識」によって現れるものであり、識とは別に、それ自体で独立して存在する外界の対象(境)はないとする唯識仏教の考え方。「ただの知識しかない」という意味ではない。
由来
インド大乗仏教の瑜伽行派(唯識派)の思想に基づく語である。唯識説は4~5世紀ごろ、無著・世親らによって体系化された。中国では唐代、玄奘が659年に訳出・編纂した『成唯識論』などを通じて、「識のほかに独立した外界の対象はない」という教説が説かれた。日本には奈良時代、法相宗の教学として伝来した。
備考
仏教、特に法相宗・唯識思想で用いられる専門語。「境」は認識の対象・外界を指す。現象がまったく存在しないという素朴な虚無論ではなく、対象の独立した実体性を否定する趣旨である。
誤用・混同注意
- 「唯識」を「ただの知識」の意味に解するのは誤り。ここでの「識」は認識・心のはたらきをいう。
- 「唯心無境」と混同されることがあるが、関連する別表現である。
- 「無境」を「むけい」と読まない。通常は「むきょう」と読む。
例文
- 唯識無境の立場では、目の前に見える対象も、識のはたらきと無関係に成立するものではないと説明される。
- 仏教思想史の授業で、学生たちは唯識無境と心外有境の考え方を比較した。
- 唯識無境は単純な現実否定ではなく、認識と世界の成り立ちを深く考察する教説である。
分類
類義語
対義語
- 心外有境
- 境識倶有
- 唯物論